自己紹介
演習開始の30分前くらいから、学生が集まり始めました。受付を済ませた学生は、それぞれ座席を案内され、階上の教室へと向かいます。男女比はほぼ半々です。少しずつ集まってくる学生のほとんどが初対面ということで、同じテーブルに座りながらも、どことなく落ち着かない素振りを見せる学生や、小声で友人と話す学生などが見受けられます。しかし、社会人になれば、初対面の人とチームを組んで仕事をすることは決して珍しくありません。
自己紹介は、自己紹介シートを使って行われました。学年と氏名に加えて、趣味、特技、将来の夢、自己アピールを各自あらかじめ記入しており、それを発表しています。皆さんは緊張のためか、ぎこちなく、時折聞こえる拍手もまばらです。中には早くに自己紹介を終え、次の事例確認に進むグループもありました。
学習する事例の確認
学習する事例の確認では、誰か一人が代表して事例を読み上げている姿がよく見られました。今回のグループワークでは、どのようにグループワークを進めるかということも含めて、学生に任されます。事例の読み上げが終わると、一人ずつ意見を話すグループもあれば、積極的に発言してメンバーを引っ張っていく人がいるグループもありました。事例確認を終えると、グループワークへと進みます。
グループワーク
グループワークの目標は、事例に対する共通理解を深め、多職種による支援目標を導き出すことです。Aさんと家族が「できること」と「できないこと」を整理するところから始まりました。付箋にひとつずつ意見やアイデアなどを書いてまとめていく、KJ法で話し合いを進めます。
看護学生からは、Aさんについて「医療スタッフや妻と適切なコミュニケーションが取れるか」「自分で薬が飲めるか」「一人で食事ができるか」などの懸念が示されました。特に妻が術後で、妻自身も通院を必要とすることから、妻の負担が大きくなり過ぎないようサポートする必要があるのではないかとの指摘がありました。
理学療法を学ぶ学生からは、Aさんについて「2階までの階段歩行ができるのか」「トイレまでの歩行ができないのではないか」「感覚障害があり、転倒などでケガをしても自分では気づけないのではないか」「リハビリが必要ではないか」などが、次々と指摘されます。
社会福祉を学ぶ本学の学生からは、「介護保険で対応できる範囲とできないことを明確にすること」「Aさんは1階で生活できないか」「住宅改修が必要なのはどのような箇所か」などの意見が出ていました。娘の結婚式を控えているのだから、結婚式に参加することを目標にプランを立てたらいいのではないかなど、Aさんの気持ちに寄り添う提案も見受けられました。
次に、Aさんと家族に対して、それぞれの立場から「できること」とは何かについて話し合いを進めます。このあたりまで来ると、自己紹介のときのような緊張やぎこちなさはすっかり取れ、チームとして機能し始めます。
看護学生からはAさんへの「食事指導や服薬指導」に加えて、妻にもAさんの食事と服薬サポートのための指導を行ったほうがよいのではないかという意見が出ていました。妻自身の回復もあり、負担の軽減のために何ができるかについて話し合うグループも見られました。
Aさんの「布団からの立ち上がり」「トイレ歩行」「2Fとの往復に必要な階段昇降」などについての考えを表明したのは、理学療法を学ぶ学生です。妻には、歩行のサポートなど、Aさんへの介助指導が必要なのではないかという意見もありました。
社会福祉からは、妻が一人ですべてを抱え込むようにしてはいけないということから、長男夫婦に協力を求めることや、Aさんの友人や地域のボランティアなどとの関わりなどのアイデアが出されました。
Aさんは在宅生活を希望しているものの、本人の状態や妻の負担を考慮すると、すぐに希望を叶えることはできそうにありません。どのようにして本人の希望に添うよう話を進めて行けるのか、どのような代案があるのかなど、それぞれの立場からの考察や、ときに他分野へ踏み込んだ質問や意見を出すなどしながら、活発に議論していました。
最後に、Aさんと家族が「自分たちの力で暮らすために必要な支援」とは何かについて、それぞれの立場から意見を述べます。発表に向けて、付箋を見つめたり並べ替えたりしながら話し合い、チームとして一緒に考える様子が見られました。
看護からは、すぐに病院に戻ってこなくてもいいように、Aさんにリハビリを受けるよう説得したいが、どのようにしたらいいのかなどの課題が提示されました。今は急性期の病院にいるので、リハビリを受けて回復期の病院へ転院し、自宅へ帰るほうがいいのではないかなどといった意見もあがりました。
リハビリもあちらこちらのグループで論点になっていましたが、回復の見込みがあるならリハビリを受けた方がよいという意見が理学療法から出ていました。生活スペースは2階ではなく1階のほうが、Aさんも家族も負担が少ないのではないかとの指摘もありました。
社会福祉からは、経済的な支柱を失い金銭面の不安があると思われるので、介護保険で賄えるサービスや住宅改修の提案、急な入院や治療に必要な経済的支援・資金の工面に使える制度の案内などの必要性について意見が出されました。
発表
100分間のグループワークを終えた学生は、発表を迎えます。4グループずつ4会場に分かれ、各グループとも質疑応答を含めた持ち時間10分で成果を伝えます。どのグループから発表するか、各グループでは誰がどのように発表するか、まとめ方も発表の仕方もすべて学生が決めました。実際の発表では、3分野から代表者が発表するケースが多く、最後に一人ずつ感想を述べるグループもありました。
ディスカッションの内容はもちろんのこと、多職種チームとして「できたこと」と「できなかったこと」もそれぞれ発表されました。できたこととして挙げられたものには、「それぞれの視点から意見が出された」「専門的な知識を共有できた」「気づきや学びが多かった」「相手の意見を否定せずにディスカッションできた」などがありました。
その一方で、「できなかったこと」の中には、「他分野の学生からの質問に上手く答えられなかった」「知識不足を感じた」「他の分野に頼りすぎた」「社会資源が何かまだよく分かっていない」「ディスカッションの時間配分ができなかった」などの声があがっていました。
講評
ファシリテーターを務めた先生方の講評をご紹介します。
ときに、知識の不足から互いに相手の意見について理解できずぶつかることもありましたが、丁寧に聴き合うことを通じてその困難も解消していったようです。相手の方の理解の根拠が分かったときの得心のいった様子が印象的でした。